「未読」第一弾 ― 在宅医療専門医・海渡翔を撮る

先日、海渡翔さんを撮影したドキュメンタリー作品『【在宅医療専門医】海渡翔:自転車でつなぐ在宅医療の現場』が Documentaries Without Borders Film Festival に正式入選しました。

この作品は、私が「未読」シリーズとして立ち上げたドキュメンタリーの第一弾です。
制作当初から強く印象に残っている作品であり、
“人を見つめるドキュメンタリー”という自分の原点を確認させてくれた大切な一本になりました。


■ 撮影のはじまり

海渡さんとは、偶然のご縁で出会いました。訪問診療という仕事、そしてご自身で医院を開業されているというお話を伺い、「身近ではなかなか知ることのない医師の現場を、映像で伝えてみたい」と思ったのが始まりです。

ドキュメンタリーとはどう作るものなのか──
その問いをあらためて自分の中で見つめ直しながらも、
結婚式の撮影で培ってきた“その人の生き方を温かく見つめる”という感覚を出発点にしました。


■ 撮影スタイルと現場の工夫

まずは、訪問診療という日常を追いかけるところから始めました。
自転車で移動しながらの撮影になるため、どう機動的に記録できるかを考え抜きました。

結論として、DJI Osmo Pocket 3 を使用。
私自身も自転車に乗りながら、海渡さんの後ろを追走する形で撮影しました。軽量かつスタビライザー性能の高いこのカメラがあったからこそ、この映像は実現できたといっても過言ではありません。

メインカメラには Panasonic LUMIX S5 を使用。
レンズは SIRUI Saturn 50mm 1.6x フルフレームアナモフィックレンズ(ナチュラルフレアタイプ)
夜景やSF的なブルーフレアではなく、あたたかみのあるナチュラルフレアを選択しました。

今回の挑戦のひとつは「50mm一本勝負」でした。
やや長めの焦点距離ですが、人と人の距離を誇張せずに“目で見た距離感”を写すことができる。そのリアリティを信じて、あえてこの1本に絞りました。


■ インタビュー撮影 ― カメラと視線の関係

インタビューは、医院内の一角で行いました。照明は大きなソフトボックス1灯のみ。
シンプルな環境の中で、人物の表情と声だけに集中できる空気を作りました。

「未読」シリーズでは一貫して、カメラ正面に対して“真正面で話してもらう” スタイルをとっています。一般的なドキュメンタリーのように、少し横を向いて話す構図ではなく、まるで視聴者に直接語りかけるような距離感。

それは、被写体の方が**自分の内側を正直に語る“正面性”**を大切にしたいからです。画面の中で視線が合う瞬間、そこに“真実の呼吸”が生まれる。このシリーズ全体の核になる演出方法だと思っています。


■ 技術の実感と、撮影者としての気づき

S5のセンサー手ぶれ補正により、アナモフィックレンズでもすべて手持ち撮影が可能でした。
軽さと安定性、そして自然なブレの美しさ。
これらの要素がドキュメンタリーの“呼吸”に繋がっていると感じます。

一方で、フォーカスリングがギアタイプであるため、フォローフォーカスを併用したほうが正確に合わせられる場面もありました。しかし今回は、できるだけ機材をシンプルに、「人を追うこと」そのものに集中する構成にしました。


■ 撮影を終えて

この作品が完成したのは、出演いただいた海渡さん、そして撮影に協力してくださった患者の皆様のおかげです。
ドキュメンタリーでは俳優ではなく、“そのままの人” に出演していただきます。
それゆえ、被写体との信頼関係が何よりも重要です。

海渡さんの普段からの誠実なお人柄と患者さんとの関係が、撮影を支える大きな力になりました。
また完成後も「素敵な作品です」と言ってくださり、私の“わがままな映像づくり”を温かく受け止めてくださったことに感謝しています。


■ 最後に

ドキュメンタリーの本質は、出会いだと思っています。撮る側の意図よりも、その人の中にある“光”を見つけること。どんな人にも、苦しみや弱さの奥に、美しく尊い瞬間が必ずある。

私はその瞬間を見逃さずに、“記録”としてではなく、“祈り”として残していきたいと思っています。


📍 撮影機材

  • Camera:Panasonic LUMIX S5
  • Lens:SIRUI Saturn 50mm 1.6x Anamorphic (Natural Flare)
  • Sub Camera:DJI Osmo Pocket 3

🎞️ 作品:『【在宅医療専門医】海渡翔:自転車でつなぐ在宅医療の現場』
🎬 シリーズ:「未読」第1弾
🏆 公式選出:Documentaries Without Borders Film Festival

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